中国向け輸出における危険化学品規制について

中国向け輸出における危険品化学品規制について
さわむら

中国向け輸出における危険化学品規制って何なんだろう?そんな疑問にお答えします。

こんにちは、メーカー勤務で約10年ほど貿易事務員をしている 沢村(さわむら) です。

物流会社やメーカーでの貿易実務経験をもとに、皆さんのためになる情報を発信していきます。

今回は日本から中国へ輸出を行う際の危険化学品規制についてがテーマです。

2021年末ごろから中国向け輸出貨物について、船社・フォワーダーからSDSの組成成分100%開示、CAS番号開示要求が続いていました。出荷のたびに問い合わせが発生したことが発端となった内容ですが備忘録をかねて記事にまとめます。

目次

はじめに

本記事の背景

冒頭にも書いたように、2021年末ごろから中国向け輸出貨物について、船社・フォワーダーからSDSの組成成分100%開示、CAS番号開示要求が続いていました。

しかし2022年1月時点では、中華人民共和国海事局や中国税関からの通知、公告として、中国向け輸出に関するSDS記載内容についての通達は出ていませんでした。

関連各所への確認によると、2021年3月1日施行の中華人民共和国長江保護法への要求事項への対応で罰金を回避するための影響ではないかと回答がありました。中華人民共和国長江保護法の施行が2021年3月1日で、発効からかなりの月日が過ぎていたため、この規則について存在を忘れていた人も多いのではないでしょうか。

さわむら

施行後半年以上たって今さら!?と思ったのは秘密です。

中華人民共和国長江保護法とは

中華人民共和国長江保護法とは、長江流域の生態環境の保護、水域資源の利用についてまとめられた河川流域保護法です。

中華人民共和国長江保護法の第51条規定により、劇毒化学品及国が内陸河川の輸送を禁止する危険化学品を長江流域で水上輸送することが全面的に禁止されました。

この中の一文に以下の定義があります。

第五十一条 国家建立长江流域危险货物运输船舶污染责任保险与财务担保相结合机制。具体办法由国务院交通运输主管部门会同国务院有关部门制定。

禁止在长江流域水上运输剧毒化学品和国家规定禁止通过内河运输的其他危险化学品。长江流域县级以上地方人民政府交通运输主管部门会同本级人民政府有关部门加强对长江流域危险化学品运输的管控。

http://www.npc.gov.cn/npc/c30834/202012/1626d0bc5284485588222995e712c434.shtml

上記をDeepL翻訳にかけた内容が以下となります。

中華人民共和国長江保護法 第51条により  
国は、長江流域で危険物を輸送する船舶に対して、汚染賠償責任保険と資金保証を組み合わせる仕組みを構築する。 具体的な対策は、国務院交通主管部門が国務院の関連部門と連携して策定する。
長江流域の内陸水路で、国が輸送を禁止している猛毒の化学物質やその他の危険な化学物質の輸送を禁止すること。 長江流域の県レベル以上の地方人民政府の主管運送当局は、同レベルの人民政府の関連部門と連携して、長江流域における危険化学物質の運送の管理を強化する。

中国向け輸出の危険化学品規制について

どのような影響があるのか

製品によっては、SDSの記載内容で成分の開示CAS番号の開示組成成分100%開示ができないものはBooking受付不可となることがあります。

さわむら

正しい書類が用意できるまで出荷保留となることもあります。

SDSとは

SDS とは Safety Data Sheet の略語で、昔は MSDS(Material Safety Data Sheet)と呼ばれていたものです。

事業者が化学物質および化学物質を含んだ製品を他の事業者に譲渡・提供する際に交付する、化学物質の危険有害性情報を記載した書式です。日本工業規格(JIS)の記載項目に準拠してSDSを作成しています。

SDS交付を受けた使用者は、危険有害性の把握、リスクアセスメントの実施、労働者への周知等の化学物質の取扱い管理や輸出入での提出書類としても使用されます。

SDSへは指定物質を含んでいても記述が免除される成分もあり、100%開示をしているSDSは見ることは多くありません。なにより秘密保持契約を結んでいても、100%の組成成分が分かってしまうと悪意のある人間によっての技術転用や模倣品の販売をされる恐れがあるため慎重な判断を求められます。

CAS番号とは

CAS番号とは Chemical Abstracts Service Numberのことで、各化学品の指定登録番号のことを表します。

規制の対象となるもの

劇毒化学品
内陸河川を通じた輸送禁止の危険化学品

劇毒化学品内陸河川を通じた輸送禁止の危険化学品にリストされているものが規制対象となっています。

劇毒化学品に該当するもの

危険化学品目録(危险化学品目录2015版)にリストされている化学品のうち、以下に該当するものが劇毒化学品となり規制の対象となります。

  • 危険化学品目録の備考欄(备注)に 毒劇(剧毒)の記載がある化学品
  • 危険化学品目録で明記された劇毒化学品の定義と判定ラインに該当する化学品

危険化学品目録(危险化学品目录2015版)の一部を抜粋・引用したものが以下となります。

危険化学品目録

https://www.mem.gov.cn/gk/gwgg/xgxywj/wxhxp_228/201503/t20150309_232632.shtml
危险化学品目录(2015版)

各項目の意味については、危険化学品目録の3章にて以下のように定義されています。

三、《危险化学品目录》各栏目的含义
(一)“序号”是指《危险化学品目录》中化学品的顺序号。
(二)“品名”是指根据《化学命名原则》(1980)确定的名称。
(三)“别名”是指除“品名”以外的其他名称,包括通用名、俗名等。
(四)“CAS 号”是指美国化学文摘社对化学品的唯一登记号。
(五)“备注”是对剧毒化学品的特别注明。

https://www.mem.gov.cn/gk/gwgg/xgxywj/wxhxp_228/201503/t20150309_232632.shtml
危险化学品目录(2015版)

各項目の意味を日本語訳したものが以下となります。

スクロールできます
項目意味
序号有害化学物質カタログに記載されている化学物質の通し番号
品名Principles of Chemical Nomenclature (1980) に従って決定された名称
别名「品名」以外の名称をいい、普通名称、通称等を含む俗名
CAS号米国化学物質情報サービスによる化学物質の固有の登録番号
备注毒性の強い化学物質に関する特記事項

急性毒性閾値:急性毒性区分1、すなわち以下の条件のいずれかを満たすことの判断基準としての閾値については、危険化学品目録の2章にて以下のように定義されています。

二、剧毒化学品的定义和判定界限
一:大鼠实验,经口LD50≤5mg/kg,经皮LD50≤50mg/kg,吸入(4h)
LC50≤100ml/m3(气体)或0.5mg/L(蒸气)或0.05mg/L(尘、雾)。
经皮LD50的实验数据,也可使用兔实验数据。

https://www.mem.gov.cn/gk/gwgg/xgxywj/wxhxp_228/201503/t20150309_232632.shtml
危险化学品目录(2015版)

上記を日本語訳したものが以下となります。

a: ラットにおいて、経口 LD50 ≦ 5mg/kg、経皮 LD50 ≦ 50mg/kg、吸入 (4h)
LC50 ≤ 100 ml/m3 (ガス) または 0.5 mg/L (蒸気) または 0.05 mg/L (粉塵、ミスト).
経皮的LD50の実験データ、ウサギのデータもあります。

内陸河川を通じた輸送禁止対象の危険化学品に該当するもの

内陸河川輸送禁止危険化学品目録(内河禁运危险化学品目录2019版)が規定する228種にリストされている化学品、内陸河川輸送全面禁止危険化学品(228種)が規制の対象となります。

  • 内陸河川輸送全面禁止危険化学品(228種)

また、内陸河川輸送全面禁止危険化学品(228種)の中には、内陸河川ばら積み輸送禁止危険化学品(85種)という区分が存在します。

ばら積みの定義
税関総署公告2020年第129号「貨物の属性」について以下のように定義されています。

  • 件装
    包装ありの危険化学品 (ドラム容器、箱、袋、中型バラ積み容器などに収納してある危険化学品、いわゆる個品運送)
  • 散装
    「件装」危険化学品以外の危険化学品で、船倉内の危険化学品、タンクローリーに積付けされた危険化学品、タンクへ直接注入された危険化学品

内陸河川輸送禁止危険化学品目録(内河禁运危险化学品目录2019版)の一部を抜粋・引用したものが以下となります。

内陸河川輸送禁止危険化学品目録

https://www.waizi.org.cn/doc/65168.html
内河禁运危险化学品目录2019版

各項目の意味を日本語訳したものが以下となります。

スクロールできます
項目意味
序号リストされた化学物質の連番
危险化学品目录序号リストされた化学物質の通し番号
品名化学物質命名法の原則に基づく危険有害性のある化学物質の名称
别名称、別名義など「名前」以外の名称
UN编号危険物の輸送に関する勧告の中で危険物に付与した番号
正确运输中文名称国際海事機関が国際海上危険物規程で定める危険物の正しい出荷名
CAS号米国化学物質情報サービスによる化学物質の固有の登録番号

違反時の罰則

中華人民共和国長江保護法では、罰則について以下のように規定されています。

第九十条 违反本法规定,在长江流域水上运输剧毒化学品和国家规定禁止通过内河运输的其他危险化学品的,由县级以上人民政府交通运输主管部门或者海事管理机构责令改正,没收违法所得,并处二十万元以上二百万元以下罚款,对直接负责的主管人员和其他直接责任人员处五万元以上十万元以下罚款;情节严重的,责令停业整顿,或者吊销相关许可证。

http://www.npc.gov.cn/npc/c30834/202012/1626d0bc5284485588222995e712c434.shtml

上記をDeepL翻訳にかけた内容が以下となります。

第90条 本法の規定に違反して、国が内陸河川での輸送を禁止した猛毒化学品及びその他の危険化学品を長江流域の水上で輸送した場合、県レベル以上の人民政府交通主管部門又は海事行政部門は、是正を命じ、不法所得を没収し、20万元以上200万元以下の罰金を科し、直接責任者及びその他の直接責任者に5万元以上10万元以下の罰金を科するものとします。 状況が深刻な場合は、操業停止と是正を命じ、または該当するライセンスを取り消すことになります。

さわむら

かなり重めの罰則ですね…

中国向けの危険品輸出を行う場合の確認項目

  1. 向け地がどこかを確認する

上海向け、上海で積み替えを行う貨物、上海通関を経由する危険品があるかが第一のポイントです。

  1. 向け地を確認したらSDSを確認する

GHS分類に関する記載がないSDSは規定を満たさない為、改定を行う必要がある

  1. 以下2規定に該当する規制対象物質が含まれるかを確認する
  • 劇毒化学品
  • 内陸河川運送全面禁止危険化学品

確認ポイントは以下の点

  • 化学品目録(2015版)の注釈に 剧毒 表示があるCAS番号を確認する
  • 内陸河川を通じた輸送禁止の危険化学品目録のリストである 内陸河川運送全面禁止危険化学品(228種)のCAS番号を確認する
  • このリスト内の該非判定はSDSに記載されるCAS番号により行われるため、UN番号で判断を行わないようにしましょう!
  • 急性毒性、水性環境有害性(急性・慢性)のいずれかに区分1がある場合はCAS番号、組成成分の100%開示が求められる
  • 急性毒性、水性環境有害性(急性・慢性)いずれも区分1に該当しない場合で主成分以外のCAS番号非公開のSDS、成分組成100%見何のSDSでも積載可能な場合がある
  1. 該当品目がある場合 上海向けの危険品として貨物引き受け不可となります

要求要件に合致しないSDSがある場合の対応

「中国向けの危険品輸出を行う場合の確認項目」では、正しいSDSが手元にあるという前提で作業時の確認事項をまとめていますが、要求要件に合致しないSDSが手元にある場合は以下のような確認を行う必要があります。

  1. SDSの内容の変更(改定)が社内規定上可能か確認を行う。
  2. SDSによる組成成分100%開示ができない場合、成分票やメールでのやり取りによる開示で引き受け可能か確認を行う。
  3. 第3者機関でも化学品の性質が分からない場合(化学混合物の場合など)は、現地MSA(中華人民共和国海事局)に連絡をとり成分の検証を行う。
さわむら

2.については担当者ベースで異なる場合があり、業務担当はNGでも上席の方に相談したらOKといったこともありました。

まとめ

突然運用が変わる印象のある中国向け危険品手配ですが、今回の通達に関しては本当に驚きました。

当初フォワーダーから連絡を受けたのが、工場より貨物出荷し指定倉庫への納入が終わった3日後くらいの出来事だったので、その後の対応で追われておりました。社内での追加費用発生の稟議提出、SDSの更新について各所への確認+依頼を行うなど通常の業務が完全に止まりイライラ…

なお生態環境の保護と回復を目的に施行されたようですが、中国らしいな~と思ったのは既に建設済みの拠点でも取り扱い成分によっては、地方政府から長江流域の化学関連工場の移転を求められている事例があるようです。

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この記事を書いた人

沢村 千佳 沢村 千佳 貿易事務

貿易事務を 10年 ほどやっています。

これまでの経験を元に貿易事務や資格試験に関する情報を記事にしていきます。

コメント

コメント一覧 (3件)

  • 沢村様

    初めまして。お世話になります。

    本情報のご提供、誠にありがとうございます。

    ちょうど今、弊社の****法人より、広州及び深圳の空港税関から、製品SDS中のCAS番号を全て公開しないと、危険性の判断がつかず、通関が完了しない旨の連絡を受けたとの情報を得ているのですが、沢村様の方でも、上海以外の地域でも便乗して(?)同様の要求を受けている状況はございますでしょうか?

    また、日本人の感覚としましては、当該規制リストに該当する物質を含有していないことを確認し、また、GHS分類が急性毒性区分1や水生環境有害性区分1に該当するか否かは、SDSを提出して税関の方に確認していただければそれでいい気がするのですが、それだと足りないというのであれば、それぞれ、規制の対象にならない旨の証明書を署名や社印の捺印等をして提出すれば、成分の全開示は必要無いと思うのですが、何か、成分全開示を回避する術があれば、ご教授いただければ幸いです。

    以上、よろしくお願い申し上げます。

    ※個人や会社名が判別できるような箇所はコメント公開前にこちらの方で一部修正しました(沢村)

  • Y.K.様

    個別にメールにて回答しましたが、みなさんの業務の参考になると思いますので簡単に対応履歴を記載しておきます。

    私が直近で対応したものでも、上海以外のエリア(香港、中山)へ輸出時に同様の要求がございました。こちらは日本国内でのフォワーダーへPICKUP依頼から輸出許可までは特に成分開示の要求はなく、現地着後通関からの開示要求でした。

    当時の出荷品は成分100%開示がなされると技術的な模倣が簡易な製品だたっため、非常に困惑しましたが【Consigneeへ中国側の輸入許可が下りない旨、背景含めて説明をし、現地フォワーダー・通関サポートを依頼】を行い無事現地側の輸入許可となりました。

    具体的には以下を行いました。

    ①現地企業に問い合わせる前に、なぜこの情報が現地通関で必要なのかをフォワーダーに再確認し、何を根拠にした質問かを明確にする(ヒアリングした結果、長江保護法と回答あり) 

    ②現地企業へは日本側での輸出許可は問題なくおりていることを伝える(当該品をEX-Worksで出荷し、現地の起用会社によるトラブルであり日本側では積戻しの対応しか取れないこと説明)

    ③フォワーダーより①の理由で開示が必要とのことであったため、中華人民共和国長江保護法で求められている範囲外のエリアである事を繰り返し説明(現地より電話、メールで数回問い合わせ)
    ※この時点ではまだ担当ベースでは判断がつかない(ごにょごにょ…)と言っていたので上席に、フロー上の誤りがないことを確認してもらうよう依頼

    最終的には現地から以下メールを送ったことですぐに輸出許可は下りました。
    ④通関が止まったことによるすべての負担金を現地からフォワーダー、通関部に請求する旨通達

  • (続き)

    フォワーダーから問い合わせを受けた際は、問い合わせの目的を明確にしましょう。
    なぜ成分100%開示を求められているのか、その理由によって対応できる内容も変わってきます。
    フォワーダーの社内運用が定まっていないことや担当ベースで理解度が異なることによって、問い合わせが発生しているという事案もあります。

    なお上海向けの貨物では、日本国内の通関まではSDS外の書面で “該非判定書(便宜上該非判定と明記します)” を添付し、SDSの残成分で危険品目録、内陸河川を通じた輸送禁止対象の危険化学品に該当しない旨明言し、100%開示と同様の書類として運用してもらいたい旨フォワーダー経由で各所へ確認+承諾をいただけました。

    併せて現地側にも輸入通関が止まらないよう通関のタイミングに合わせ、Invoice、SDSと一緒に”該非判定書”を送付し輸入通関が滞らないようサポートを依頼しております。

    上記により少し作業工数は増えましたが、輸送の遅れが回避でき、100%開示を免れるための対応としては最適と感じています。

    まだ各所での運用フローが定まっていない部分もあるようで、今後は100%成分開示されたものが必要になる可能性があるというコメントはフォワーダー経由で連絡が来ているというのが現状です。

    100%開示したことによる複製品の流通時の被害への対応、販売先の再検討、危険コストを上乗せした単価の改定などの調整を行い、急な変更へ対処できるよう備えております。もう少し中国向けの輸出で運用が安定しましたら、ブログ内にて想定できる対応記載してまいります。

    ※個々の契約条件によっては対応内容が異なる可能性はあります。

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